それは、いつも行われるような民事没収事件の審理でした。
猫になった弁護士以外は・・・
Zoomの猫フィルター
リモートワークがニューノーマルとなった今、日常的にZoom会議を行う人も増えたことと思います。Zoomには、自分の背景を好きな画像に変えることのできるバーチャル背景設定があったり、自分の動画にウサギの耳を生やすこともできるフィルター機能がついていたりします。友達同士なら楽しい機能ですが、仕事となると話は別です。
2月10日、米国テキサス州プレシディオの弁護士ロッド・ポントン氏は、テキサス州の地方裁判所で行われた公聴会に Zoomで参加するも、アプリ内の猫のフィルターをオフにする方法が分からず途方に暮れていました。
約40秒と短いビデオですが、ファーガーソン判事とポントン氏のまるで台本のあるコントのようなやり取りが行われます。
“Mr. Ponton, I believe you have a filter turned on in the video settings. You might want to um…”
ポントンさん、ビデオ設定でフィルターがオンになっているようですが、オフにしたほうが・・・
猫になった弁護士を見て、ファーガーソン判事は一目でフィルター設定がオンになっていることを理解しましたが、I believe…と付けることで、やんわりとした印象を与える文章にしています。「オンになっていますよ」と言い切る(決めつける)のではなく、あくまでも「オンになっているようですが」と優しく指摘しています。また、You might want to というフレーズを使うことで、「~した方がいいですよ」「~するのはいかがでしょうか」と相手にやさしく行動を促すフレーズを使っています。ビデオでは You might want to で途切れてしまっていますが、恐らく You might want to check your settings. (設定を確認された方がいいかもしれません)や You might want to turn it off. (オフにするのはいかがでしょうか)と言いかけていたと思われます。
“Aughhh. We’re trying to, we’re trying to. Can you hear me, Judge?”
あああ・・・消そうと、消そうと思っているんですが。判事、聞こえますか?
問題は音声ではありませんが、自分の声がちゃんと聞こえているか確認するポントン氏。そして、猫になったポントン氏の表情や声からは焦りと苛立ちが読み取れます。
“I can hear you. I think it’s a filter.”
聞こえますよ。フィルターだと思います。
左下に映っているバウアー氏はメガネをかけ、「なになに?」と画面をのぞき込むのに対し、右上のフィリップス氏は居眠りをしているかと思うほど反応が薄いのが印象的です。
“It is and I don’t know how to remove it. I’ve got my assistant here. She’s trying to, but… aughhh. I’m prepared to go forward with it. I’m here live. I’m not a cat.“
そうなんです。でも、どうやってオフにしたらいいかが分からなくて。アシスタントがここで消そうとしてくれているんですが。あああ・・・このまま進めてもらって構いません。私はここにちゃんといます。私は猫ではありません。
go forward with で(計画などを)進めるという意味です。そして、今回の騒動でポントン氏に「ネコ弁護士 (cat lawyer)」というニックネームがついてしまったセリフが登場。 I’m not a cat.
“I can, I can see that. Um, I think if you click the up arrow next to the…”
そ、それは分かります。えっと、上の矢印をクリックすれば・・・
そんなのは分かってますよ(笑)とファーガーソン判事が苦笑している様子が彼の声からはもちろん、I can を繰り返すところからも読み取れます。ここでやっと右上のフィリップス氏がニコリと笑います。左下のバウアー氏は「やれやれ」と言わんばかりに椅子にもたれます。
インタビューによるとこの日、ポントン氏は秘書のパソコンを使っていたといい、秘書は非常に恥ずかしい思いをしたと言います。
この様子は裁判所のYouTubeに投稿され、ファーガーソン判事もそのリンクを Zoom裁判を行う際のアドバイスとしてツイートすることで、瞬く間にインターネット上で広まりました。
重要なZoomアドバイス:オンライン公聴会に参加する前に子どもがパソコンを使用した場合、Zoomのビデオオプションでフィルターがオフになっていることを確認してください。第394司法地方裁判所では、この子猫が発言をしました。
ポントン氏はツイッターをやっておらず、公聴会が終了してものの1時間で記者からの電話が鳴りやまなくなるまで自分がインターネットで話題になっていることを知らなかったそうです。
結局、このビデオの数分後には無事に猫のフィルターを外すことに成功し、ポントン氏は通常通り自分の顔で公聴会が行えたとのこと。
あれよあれよという間に世界中に広まったツイートを見たファーガーソン判事は、続けて次のようにツイートしています。
とても面白い出来事でしたが、これは大変なこのご時世でも法律の専門家が司法制度を機能させるために貢献しているからこそ起きたことです。関係者全員が尊厳を持って裁判を進め、フィルターがかかった弁護士は優雅に対応しました。全てがプロフェッショナルでした!
決してポントン氏を笑い者にしたわけではなく、コロナ禍でも献身的に尽くす法律家達の貢献を伝えるためだったようです。
最後にインタビューでポントン氏は次のように述べています。
“If I can make the country chuckle for a moment in these difficult times they’re going through, I’m happy to let them do that at my expense.”
この大変な時期に少しでも皆さんが笑顔になれるのであれば、自分が笑い者になっても構いません。
https://www.nytimes.com/2021/02/09/style/cat-lawyer-zoom.html
ニャンとも心の広い、ポントン弁護士。