ここ数日、Facebook やインスタグラムで女性の白黒ポートレート写真を多く見かけていませんか?
これ、SNSで定期的に流行る「チャレンジバトン」の最新版です。
チャレンジバトンとは、SNS上で、英語だと “#○○Challenge”, 日本語だと「#○○チャレンジ」「#○○バトン」などのハッシュタグをつけて、多くの場合、何らかの写真や動画と共にシェアされます。次のチャレンジャーを指名することもあります。
この5~6年でも、多くの「チャレンジバトン」がSNS上で巡っています。記憶に新しいものをいくつか挙げてみます。
2014年
The Ice Bucket Challenge
日本でも芸能人が氷水のバケツを頭からかぶる動画が多く流れました。実はこのチャレンジの目的はALS(筋萎縮性側索硬化症)の研究支援。「氷水を頭からかぶるか、ALS協会に寄付してね」というものでした。
2019年
The Bottle Cap Challenge
こちらはテコンドーのチャンピオンが始めたもので、回し蹴りでビンやペットボトルのフタを開けるビデオをシェアするというものでした。多くのセレブがかっこよく回し蹴りを決めたり、ズッコケたりしていましたね。
The 10-Year Challenge*
10年前と現在の写真を投稿するというチャレンジ。つまり、2009年と2019年の自分を比較するものです。誰が何の目的で始めたかは諸説あるようですが、2009年が選ばれた理由は、2009年はSNSが急成長を果たした年というのが有力説のようです。(Independentより引用)
The 7-Day Book Cover Challenge*
「読書文化の普及に貢献するため、1週間に1日1冊、説明ナシで好きな本の表紙画像を、SNSにアップ。その際毎日1人の友達をタグ付けしてこのチャレンジへ招待する」というものでした。(Yahooより引用)これは今でもほんの少し見かけるので、現在進行形のチャレンジかもしれません。
*因みに、10-year challenge, 7-day book cover challenge の year と dayが複数形ではなくて単数形になっている理由、分かりますか?不安な方・分からない方はこちらの記事で確認してくださいね。(TOEICにも出ます)
The Push-Up Challenge
こちらは腕立て伏せをした動画をアップし誰かにバトンを渡すチャレンジで、新型コロナと最前線で戦う医療従事者を激励しすることを目的としたもの、メンタルヘルスの認識や関心を高めるもの、アメリカの退役軍人を激励することを目的としたものなど、若干バラつきがあったようです。また、腕立て伏せの回数も6回~10回、あるいは可能な限りと色々な動画を目にしました。
そして、2020年7月に始まった今回のチャレンジは、女性が女性を支え合い、高め合うことで女性のエンパワーメントを訴えるもので、 #ChallengeAccepted や #WomenSupportingWomen のハッシュタグと共にシェアされています。
こちらのチャレンジが回ってくると次のようなメッセージが付いてくることがあります。
There is a women empowerment challenge going around. You are amazing. Women often face intense criticism; we should take care of each other. We are beautiful the way we are. Post a photo in black and white alone, written “challenge accepted” and mention my name. Identify 50 women to do the same, in private. I chose you because you are beautiful, strong and incredible. Let’s ❤️ each other!
女性のエンパワーメントチャレンジのバトンです。あなたは素晴らしい女性です。女性に対する世間の風当たりは強いことがよくありますが、私たち女性は力を合わせなくてはいけません。私たちはありのままで美しいのです。”challenge accepted”という言葉と私の名前を書いて、あなたのモノクロ写真と一緒に投稿してください。そして、50人の女性にも同じようにバトンを回してください。こっそりと。あなたは美しくて、強くて、素晴らしい女性だから選ばれたのです。お互いを支えあいましょう♥
empowerment(エンパワーメント)とは、empower(権利を与える、力を与える)という動詞を名詞にしたものです。つまり、女性のエンパワーメントとは女性に権利や力を与えるという概念で、日本生涯教育学会では次のように定義されています。
女性のエンパワーメントは、ジェンダーのもとに意思決定過程から排除され、力を奪われ、無力化(disempowerment)されてきた女性たちが、ジェンダー問題に気づき、その批判的意識を行動に転換するために、力の基礎、すなわち意思決定過程への参加の機会を獲得することで、自ら力をつける(self-empowerment)道を開くこと
生涯学習研究e事典から引用
また、英語の Wikipediaにはこう書かれています。
Women’s empowerment means accepting and allowing people (women) who are on the outside of the decision-making process into it. Women’s empowerment is the most crucial point to be noted for the overall development of a country. ”
Wikipediaより引用
女性のエンパワーメントとは、意思決定プロセスから外された人々(女性)を受け入れ、受け入れることを意味します。女性のエンパワーメントは、国の全体的な発展のために最も重要なポイントである。
なぜ今このタイミングで女性のエンパワーメントが話題になっているのでしょうか。
それは、先週、アメリカで大きく取り上げられたある動画がきっかけだと言われています。
この動画に登場するのは、アメリカで史上最年少の下院議員となったアレクサンドリア・オカシオ・コルテス議員。
彼女はその前日、テッド・ヨーホーという男性の下院議員から “disgusting(むかつく)” “you are out of your freaking mind(頭がいかれている)” などと言われ、しまいには放送禁止用語を含む極めて下品で侮辱的な性差別発言を浴びせられたのです。そして、この暴言を現場にいた記者が聞いていたため、大きなニュースとなったのでした。
しかし、その後、ヨーホー議員はそのような事実はなかったと主張し、次のコメントで自身の発言を完全否定。
Having been married for 45 years with two daughters, I’m very cognizant of language.
結婚して45年、2人の娘がいるので言葉の使い方は熟知しています。
この一連の発言に対してコルテス議員が行ったスピーチに、多くの女性が共感し賛同が寄せられているのです。
彼女はヨーホー氏のコメントを「傷ついたり、刺さったりするものではなかった」とし、これまで彼女がニューヨークの地下鉄でうけた嫌がらせや、バーから追い出した男性の言葉と比較しました。
「これは新しいことではなく、それこそが問題である」と訴え、「女性に対する暴力や暴力的な言葉が罰せられることのない文化と、それを支える権力の構造がある」と主張しました。
そして、自身にも妻や娘がいることで不適切な発言を認めようとしないヨーホー氏に対し、自分の悪事や暴言を女性、妻、そして娘を「盾として使うこと」は許せないと熱弁。妻や娘の存在を都合よく免罪符にする傾向にある社会を痛烈に批判しました。
「私はヨーホー氏の一番下のお嬢さんより2歳年下です。私も誰かの娘なのです。既に他界している私の父が、愛娘の私にヨーホー氏が浴びせた言葉を耳にすることがなかったのがせめてもの救いです」と声を震わせて述べました。
もちろんヨーホー氏の侮辱発言自体も問題ですが、コルテス議員が最も強く訴えかけたのはアメリカ社会に根深く残る女性蔑視の文化について。
このことが今回の女性のエンパワーメントのチャレンジに拍車をかけたとされています。
PBS News Hour. (2020, July 23) WATCH: Verbal assault against women ‘not new. And that is the problem,’ Rep. Ocasio-Cortez says [Video file]. Retrieved from https://youtu.be/kjEhiyvljxU.